砂漠のナボナ

来る前からここにいて、去った後もここにとどまる

国立と国立がまぎらわしい

タイトルだけだと何が何だかわからないが、要するに「国立機関」の「こくりつ」と「東京都国立市」の「くにたち」が紛らわしいという話である。初めて「国立(くにたち)」を見たとき、うっかり「こくりつ」と呼んでしまった人は多いのではないか。僕はそうだ。ここ数年この町で暮らしているのだが、今でも「国立」とみると二度見してしまうほどだ。今回この問題に真剣に取り組みたくなったので長々と書いてみようと思う。以下では特別な場合を除いて、固有名詞も含め「こくりつ」「くにたち」のようにすべてひらがなで表記している。

 

国立市について

くにたち市は東京都の西部、東京駅からJR中央線で1時間弱ぐらいのところに位置する。元々JR南武線谷保駅周辺に集落があったのが、関東大震災に伴い千代田区神田一橋から移転してきた一橋大学を中心に学園都市としての開発が始まり、東に位置する「国」分寺と西に位置する「立」川から名前をとった「国立」駅が完成。そうして生まれたのがくにたち市である。一般的には三浦友和山口百恵夫妻が暮らす高級住宅街として有名だろう。暮らしていて思うのは、遊ぶ場所こそないものの静かで安全だし、大学生が多いため一人暮らし向けの賃貸なら(都内の高級住宅街にしては)割と安く住めるいいところである。

 

紛らわしいくにたち

さて、そうしてくにたちで暮らしていると、否が応にも地名を目にするのだが、これがひどく紛らわしいのだ。以下の写真を見ていただこう。

 

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僕がくにたち市で暮らしてから初めて紛らわしかったのがこのバス停である。「えっ!こくりつ高校?」となってしまったことをよく覚えている。実際には「東京都立くにたち高校」のことを指しているのだが、うっかり「こくりつ」と呼んでしまうのだ。

次はこれ

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くにたち駅のホームから降りる階段で見える広告なのだが、ふと目にした瞬間「あれ?」となる。さくら病院なんて名前のものを国が運営しているはずはないのだが、無意識の領域が一瞬だけ「これってこくりつじゃね?」と語りかけてくるのだ。

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これもなかなか。くにたち市内にある教会の看板なのだが、こういう風に書かれるとまるでロシア正教会のような、その国独自の宗派を想像してしまう。だが実態はどこにでもある教会のひとつだ。単純に地名を付けたはずがうっかり大きな組織に見えてしまう例である。

ちなみに今回探し回って一番ひどかったのが次のこれ

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これ、くにたちだかこくりつ大学だかものすごい混乱しないか。一応補足しておくと「ヴェレーナ(というマンション)くにたち(地名)大学通り(一橋大学に面した通りの俗称)」である。「くにたち」とも読めるし、後ろの単語とつなげて「こくりつ大学」とも読めてしまうのがものすごく紛らわしい。くにたちは暮らしやすい町だが、暮らしていると”こくりつ/くにたち”判定に強制的に頭を使わされるのだ。恐ろしい町である。

 

「こくりつ」と「くにたち」をみわける5つのポイント

このようなストレスをなんとか解消すべく、僕は「こくりつ」と「くにたち」の違いを探すための旅に出た。結果なんとなく見分けるポイントがわかったのでここでシェアさせていただきます。

 

1.こくりつはでかい

「こくりつ」とは何かを知るためにいろいろとこくりつ機関を見て回ったのだが、こくりつって建物がでかい。例えばこれ

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言わずと知れたこくりつ劇場だ。皇居に面していて、主に日本の伝統芸能が上演されている。上の写真を見ると分かるが、横にものすごくでかい。東京に来る前も名前こそ知っていたものの、歌舞伎とか文楽の上演にこんな広いスペースを用意しているとは知らなかった。

 

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こくりつ劇場は横にでかかったが、次は縦にでかいこくりつである。築地市場の程近くにある、こくりつがん研究センターだ。でかさのあまり写真も縦長になってしまったが、手前のトラックとの比較で大きさがなんとなく伝わるだろうか。実物は周りに同じくらいの建物がないことも相まってとても大きく見える。さすがはこくりつ機関、金のかかったでかい建物を作れるのは「くにたち」ではなく「こくりつ」なのだ。同様のことは最近物議をかもしているこくりつ競技場に関しても言えるだろう。

 

2.ほかの言葉がついていればこくりつ

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上の2枚は乃木坂駅に直結している、こくりつ”新”美術館、下の2枚は上野の”東京”こくりつ博物館である。いずれも「国立」と機関名のほかに”新”とか”東京”とか、他の言葉がついているのだ。例えばこれが「国立美術館」「国立博物館」だったら紛らわしくでどっちかわからないだろう。そこに言葉を補うことで「こくりつ」アピールをしているのだ。くにたちなんて東京のはずれの住宅地にこくりつ機関なんてそうそうないだろうという意識を感じるが、まあその通りだから仕方がない。他にはこくりつ”国会”図書館なんてのもある。

 

3.くにたちはひらがな

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僕のような人の存在を見越してのことか、くにたち市にあるものは結構みんなひらがなで「くにたち」と書いてしまっている。なんだいなんだい、こくりつの方にひらがなにさせろやいとひいき目には思ってしまうが、こくりつ機関は全国にあると考えるとこっちの方が合理的である。そもそもくにたち市の市立図書館は「くにたち図書館」なので、公が積極的にひらがな化を推奨していると言っても過言ではない。ただ、ひらがな表記はくにたち市の穏やかな雰囲気が伝わるようで嫌いじゃないぜ。

 

4.講堂がかっこいい大学はくにたちにある

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 くにたち音楽大学の講堂である。写真で伝わりづらいのが大変悔しいのだが、違う大きさの直方体を組み合わせたようなデザインで非常にかっこいいのだ。左に見える三角錐っぽい形のオブジェもかっこよかった。この大学は「国立」と冠していながら私立で、そこが非常にめんどくさいポイントでもある。ちなみにくにたち音楽大学は「くにたち」と言いつつ実際の所在地は立川で、微妙に離れている。東京ディズニーランドが千葉県にあるみたいな話だ。

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この講堂は一橋大学の兼松講堂。総合商社の兼松から寄贈され、伊東忠太(伊藤忠商事とは関係ない)が設計したもので、登録有形文化財にも指定されている。西洋の大学を思わせる荘厳な感じが非常にかっこよく、ドラマの撮影などでも使われている。くにたち周辺の大学にはかっこいい講堂があると言って間違いないだろう。ちなみに一橋大学も元は神田の一橋というところにあったので、くにたち市にあって一橋を名乗るとは東京ディズニーランドみたいな話である。

 

5.ルビを見る

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これは別にくにたち駅に限ったことではないが、駅名などにはルビがふってあるし、市内の店の名前なんかでも結構アルファベット表記のものが多いので間違えなくて済む。しかしJRは元々国営企業なので、民営化する前の「国立駅」は「こくりつのくにたち駅」だったのだ。そう考えると民営化ありがとうという思いがする。間違えないから。

 

こくりつとくにたちの交差点

基本的には上記の4つのポイントをおさえておけば「くにたち」と「こくりつ」の区別はつくのだが、もうこれはどうしようもないなというレベルで両者が共存している場合もある。

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まずはこれ、一橋大学の正式名称は「こくりつ大学法人 一橋大学」なのだ。くにたち市にありながらこくりつ大学。そして前述の通り一橋大学の存在があってくにたち市が作られたので、こくりつ大学ではあるがくにたち(を代表する)大学でもあるのだ。書いている自分でもややこしくなってきたが、どっちの意味でも通じてしまうというのは敵ながらあっぱれである。敵対してないけど。

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次のこれ、「これぞ逆光!」という写真で恐縮だが、神田にある学術総合センターという建物で、所在地は元々の一橋大学があったところである。ここの中には一橋大学のキャンパスの一部と、ついでに「国立情報学研究所」という研究機関があるのだ。これ、すごくややこしいのだが、「くにたち市にあるこくりつ大学のキャンパスとこくりつ機関が共存している」という3重の「国立」が存在することになる。もう参りましたというほかないぐらいの「国立」っぷり。いやはや、もうどうにでもしてください。

 

まとめ

「国立(こくりつ)」と「国立(くにたち)」は非常にややこしいが、

1.こくりつはでかい

2.ほかの言葉がついていればこくりつ

3.くにたちはひらがな

4.講堂がかっこいい大学はくにたちにある

5.ルビを見る

以上の5点を守ることでちゃんと見分けられるようになることがわかった。この記事で使った写真の撮影で、もう一生分の「国立」を見た気がする。もうこれで見間違えることはあるまいと思っていたが、写真を眺めているとどうしても一瞬脳が戸惑っているようだ。これはもう、そういう体質と割り切るしかないのかもしれない。最後に個人的な事ではあるが、ここ数年暮らしたくにたち市から引っ越すことになった。自分の中にあったくにたち市への思いをこうして形にすることができて大変満足である。ありがとうくにたち、愛してるよ!(この記事に登場した「国立」の9割は「くにたち」と書いてから変換しました)