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砂漠のナボナ

来る前からここにいて、去った後もここにとどまる

僕には扱えない

最近車の免許を持っていないと言うと驚かれることが多い。今の職場は地方都市にあって、同僚の多くが近隣の市町村出身&在住。当然みんな車通勤で、車を持っていないのは地元民ではないからと近くに社宅を借りている僕ぐらいだ。とはいえ、僕だってそれなりの田舎の出身だ。大学進学とともに上京したとはいえ、10代のころまでは自分も高校を出たあたりですぐに免許を取るんだろうと漠然と思っていた。

それなのに免許を持っていないのは、ぶっちゃけ取りに行くのが面倒だからだ。次に金がかかるから。でもそれだけでもなくて、他にも理由がある。僕は中学生の時に一度、車にはねられたことがあるのだ。

はねられたとはいえ大きな事故だったわけではない。一応病院に行って検査はしたけれど、軽い打撲すらしたかどうか今では曖昧なぐらいのものだった。でも、それは結果でしかない。車とぶつかる直前のことはよく覚えている。その日は朝から雪が降っていたけれど、家を出るのが遅くなって電車を逃した僕は自転車で学校に急いでいた。毎朝生徒指導の先生が入り口に立っていて、遅刻した生徒に小言を浴びせるのだ。それが嫌で、細かいことまで注意していなかったのは確かだ。学校まであと10分の地点にある交差点に差し掛かったとき、事は起きた。交差点に妙にゆっくり接近してきたその車は、青信号を横断中の僕を見て当然止まるものだと思っていた。次の瞬間、僕は自転車から投げ出されて地面に転がっていた。後から聞いた話では僕はその車のボンネットに乗り上げたらしいのだが、全く覚えていない。そのときはとにかく学校に行かなきゃ先生に怒られるという不安と、朝の人通りの多い道路の真ん中で倒れていることへの恥ずかしさですぐに立ち上がって歩道に戻った。「ああでもこうやって事故ったときには相手と連絡先を交換して……という手続きがあるから待ってなきゃいけないんだろうなあ」と思ってすぐに走り出したりしなかったのは、今思うとなんだか可笑しい(でもその場で色々やっておかないと後からでは警察が対応してくれなかったりするから僕の対応は間違ってないんだけど)。

その一件以来、今に至るまでなんとなく免許が取れないままでいる。あの日に僕は死んでいてもおかしくなかった。今偶然に生きているけれども、あの日の時点で何らかの運命が決していてもおかしくなかった。そう思えるぐらい、あの出来事は一瞬だった。自動車って大勢が免許をもって運転しているけれど、人の人生を左右しかねない、少なくとも僕には過ぎた道具だと思うようになった。

事故相手のドライバーがこれまた免許取りたての女子大生で、帰省ついでに地元で車をのりまわしているさなかの出来事だったようで。さすがに中学生をはねておいて警察と話している最中に泣くなよと思った。大学入る前に免許を取ろうかとも思ったけれど、僕も調子に乗って同じことをしでかすんじゃないかと不安になった。そんなこんなで今に至るまで免許は取っていないのだが、「今はいいけどさ、今後の配属先のことを考えると免許無いと出世に響くかもよ」という同期の言葉を聞いて自動車学校の資料を請求したこのタイミングで、このことについて書いておきたくなったのだ。